タルタロス・ドリーム 死神編4


バレンタインが過ぎると、残すイベントは卒業式だけになる。
その日が近付くにつれて、プリンスの気は沈んでいっていた。
卒業すれば、毎日のように死神に会うことはままならなくなる。

だから、最後の思い出が欲しかった。
記憶にも、体にも残るような強い思い出が。
そのために、こっそりと科学室に入りこみ、準備をしてきた。
そして、卒業式の日、プリンスは死神を飼育小屋に呼び出していた。


「やあ、プリンス。卒業おめでとう・・・」
「先生、来てくれたんですね」
とたんに、プリンスの声の調子が上がる。
けれど、いつもより死神との距離が空いているのが気になった。
卒業したから、もう部外者だと思われているのだろうか。
そうして完全に突き放されてしまう前に、受け入れてもらえる余地が少しでもある内に、伝えたかった。

「・・・オレ、卒業式がすごく憂鬱でした。友達とあんまり会えなくなるのも嫌でした。
でも、それはささいなことで・・・何より、先生に会えなくなるのが辛いんです」
「ありがとう、プリンス。でも・・・」
「わかってます。でも、下校の鐘が鳴った瞬間、オレは先生の生徒じゃなくなるんです」
プリンスは死神に近付き、まっすぐに目を見て言う。

「もう一度、先生の家に行かせてくれませんか。こんなの、オレの勝手なわがままでしかないんですけど・・・」
語尾が、消え入りそうに小さくなる。
死神は、一瞬だけ迷うように視線をそらしたけれど、すぐにプリンスに焦点を合わせた。
「君の望みを叶えよう。最後のはなむけに・・・」
死神は静かに告げ、プリンスの手を取った。




生徒が帰宅するのを待ってから、プリンスは死神の家に行く。
以前と同じ部屋に通されると、死神はまた飲み物を用意してくれた。
「・・・まさか、睡眠薬なんて入ってませんよね」
「入っていないよ。ボクの分も一緒に用意したからね」
安心して、プリンスはコップを受け取って水を飲む。

「そうだ、玄関に鍵をかけてこないとね・・・」
ふいに、死神が部屋から出て行く。
願ってもない機会がやってきたと、プリンスはポケットから小瓶を取り出した。
準備していた薄桃色の液体を、死神のコップの中へ入れる。
色が付くかとひやひやしたが、水は無色透明なままだった。
そこで、死神が部屋へ戻ってくる。
プリンスはさっと小瓶を隠し、そしらぬ顔をした。

「一人でいると、鍵をかけることを忘れてしまうんだ。盗られて困る物もないしね・・・」
死神はプリンスの隣に腰掛け、水を飲む。
プリンスは、死神の様子を横目で見ずにはいられなかった。
即効性はないのか、特に変化はない。


「それで・・・プリンス、ボクの家に来るだけが、目的じゃないんだろう」
「う・・・は、はい」
見透かされていて、プリンスはわずかに頬を赤らめる。
死神は、いつものようにプリンスの頭を撫でた。
それだけでもうっとりとしてしまう行為だけれど、今日は少し違いを感じる。
撫でられているだけなのに、やたらとどきどきして、心音が強くなった。
プリンスは、まさかと思い死神を見る。
すると、死神はふいにプリンスの肩を抱き寄せた。

「さっきの水に、何か入れたんだね・・・?」
「すみません・・・こうするしか方法が思い付かなかったんです」
「一服盛るなんて、悪い子だ・・・私も人のことは言えないけれど」
「えっ、どういう・・・」
どういう意味かと尋ねようとしたけれど、続きは発されない。
質問の途中で、プリンスの唇は死神に塞がれていた。
初めての口付けに、プリンスは目を見開く。
最初のうちは驚いていたものの、すぐに心地好さが勝って目を閉じていた。


そのまま、しばらく静かな触れ合いが続く。
プリンスは、胸の内から沸き上がるような熱を感じていた。
求めるように、自然と死神の腕を掴む。
すると、死神は応えるようにプリンスの唇を舌で割った。

「は、ふ・・・」
柔らかな感触が入り込んできて、プリンスは吐息を漏らした。
死神はプリンスの舌に優しく絡み、口内に触れていく。
お互いの動きは激しくはなかったものの、長い交わりが続いた。

いつまでも触れ合っていたかったけれど、やがて死神がゆっくりと唇を離す。
お互いの間にはわずかな線が伝い、下へ落ちた。
「・・・今ならまだ、中和剤を取りに行く余裕はあるよ」
死神が離れて行ってしまうと、そう察知したとき、プリンスはたまらずその体に抱きつく。
「中和剤なんていりません。先生が嫌じゃないんなら、オレ・・・このまま、してほしい」
自分でも恥ずかしいことを言っていると自覚し、後半はだいぶ小声になる。

「それが、君の望みなら・・・」
死神は、プリンスの服のボタンを外し、前をはだけさせていく。
深い口付けで気が昂っていて、プリンスの心音はすでに早かった。
上半身が露になると、次は下半身の衣服に手がかけられる。
プリンスは生唾を飲んだが、一切抵抗はしなかった。
すぐに下半身も露になり、身を隠すものがなくなる。
やけに興奮するのが早くて、その中心にあるものはもう起立していた。


「綺麗な肌だ・・・触れずにはいられなくなる」
死神は、プリンスの胸部を指でなぞる。
寒気のような感覚がプリンスの背に走り、息を飲んだ。
指先は徐々に下がってゆき、下腹部へ向かう。
そして、プリンスの中心へと触れ、舌から上へとなぞった。
「ああ・・・っ」
敏感な個所に触れられ、プリンスは歓喜にも似た声を上げる。

「もう熱くなっているね。こんなに昂って・・・」
死神は、指を巧みに使ってプリンスの先端を愛撫する。
「あ、ぁ、ぅ・・・」
ただでさえ望んでいた死神の指に愛撫されると、プリンスは体の反応を抑えきれない。
息は荒く、喘ぎは堪えられず、瞬く間に欲が溜まる。
指の腹が往復するたびに、身が悦ぶように打ち震えた。

「せ、先生、待って・・・っ」
プリンスが訴えると、死神は手を止める。
「やっぱり、怖くなったかい」
「ち、違うんです・・・オレ、先生にも、気持ち良くなってほしい・・・」
さっき死神の水に入れたのは、自作の媚薬。
その効果が表れているのなら、死神も高揚しているはずだった。

「プリンス、いいのかい」
「・・・はい」
プリンスは、羞恥心も忘れて答える。
迷いのない返答に、死神は自分の服を脱ぎ、何も身にまとっていない姿になる。
白くともたくましい大人の体に、プリンスは見入っていた。
死神は体を下ろし、プリンスと重ね合わせる。

「先生・・・温かいです」
「ふふ、生ある者の温かみは心地良いね・・・」
ずっと、こうして触れていられればいいと、プリンスはそう望む。
重なり合っているさなか、下半身に死神のものが触れた。
自分より大きさのあるものを感じ、プリンスはさらに赤面する。
「あまり激しいことをすると、きっと君を壊してしまう・・・だから、こうしよう」
死神は、下肢にある自身のものと、プリンスのものを掌で包む。
お互いが密接になり、プリンスは動悸を隠せない。
ゆっくりと掌が動かされると、とたんに悦びが増した。


「あ、う、はぁ・・・っ」
これ以上にない刺激を与える愛撫に、プリンスは抑制を忘れて喘ぐ。
死神と肌を重ね、掌に包まれている今この時が、何よりも幸せだった。
「ああ、命の温もりを感じる・・・今の君は、あの子達よりも温かい・・・」
冷静な顔をしていても確かに感じているものはあるのか、死神の吐息は熱っぽい。
プリンスはたまらなくなって、もっとその熱を求めるよう死神の背に腕を回した。

「そんな風に甘えられると、もう止められないよ・・・?」
「は・・・止めないで、ください・・・先生と一緒に、いきた・・・」
言葉の途中で、死神はプリンスのものを指先でなぞる。
望みを助長するように、特に反応する箇所を探した。
自身のものを擦り合わせつつ、指はプリンスの一点に触れる。

「は、ぁっ、や・・・」
ふいに、プリンスの喘ぎが、ひときわ荒くなる。
自分の弱い箇所を撫でられ、その身は震えていた。
「ふふ、君はここが弱いんだね・・・」
死神は、プリンスが反応する部分へ執拗に指を這わせる。

「あぁ、は、ぁ・・・先生、もう・・・っ」
ねだるように言うと、死神はプリンスに口付け、舌を交わらせた。
声も吐息も抑えきれなくなって、プリンスは本能のままに喘ぎを漏らす。
その呼気は死神に取り込まれ、唾液が混じり会う。
この瞬間、プリンスは死神と繋がりあっている幸福感を覚えていた。
口内にある舌も、下肢を包む掌も、留まることを知らずに動き続ける。
上も下も死神のものを感じて気が高ぶり、愛撫の刺激も相まって、プリンスは限界だった。

「せ、んせ・・・あ、う、あぁ、あ・・・っ・・・!」
プリンスが達したタイミングで、死神は口を解放する。
その瞬間、プリンスの下肢がびくりと震え、白濁が溢れ出していた。
「ああ、プリンス・・・っ・・・」
卑猥な感触の白濁にまみれ、死神も声を漏らす。
そして、下肢から同じ液が散布されていた。
お互いの精が混じり、掌にまとわりつく。
プリンスは大きく息を吐き、悦の余韻に浸っていた。

「ほら、君のとボクの精が混じっているよ・・・」
死神は手を引き寄せ、それをお互いに見えるようにする。
プリンスは恥ずかしい反面、死神の液をじっと見ていた。
「これを使えば、特別な魔物が生成できるかもしれないね。君とボクの遺伝子なんだから・・・」
「そ、そんなもの、洗い流してください」
興味はあったけれど、自分の精からできた魔物なんて、見る度に赤面しそうだ。

「今日は、泊まっていくかい・・・」
「はいっ」
プリンスは、反射的に良い返事をする。
即答され、死神は軽く微笑んでいた。



プリンスと死神は、服を着直して一つのベッドで横になる。
素肌のままでもいいとプリンスは思っていたけれど
抑制が利かなくなって襲ってしまうかもしれないと、そう言われて言う事を聞いていた。
襲われてもいいなんて答えたら、死神を困らせてしまいそうだったから。

「先生、ありがとうございます・・・オレのわがままを叶えてくれて」
「媚薬を使うなんて、困った子だ・・・でも、甘んじて受け入れたボクもボクだね・・・」
本気で拒んでいれば、途中で中和剤を取りに行くこともできた。
けれど、死神がそうしなかったことに、プリンスは喜びを感じていた。

「最後に・・・先生と触れ合うことができて、本当によかったです・・・」
プリンスは、甘えるように死神に寄り添う。
死神は、そっとその肩を抱いた。
「・・・進学して、もし勉強についていけなくなったら・・・」
死神はぽつりと呟き、言葉を止める。
何を言おうとしているのか、迷っているような様子を見て、プリンスは死神を見詰めた。


「ボクの力が必要になったら、学校においで。・・・何なら、ここでもいいよ・・・」
プリンスは目を見開き、一瞬言葉を失う。
卒業しても、死神に会える。
そう許された瞬間、プリンスは声にならない喜びに包まれていた。
「いいんですか、会いに来ても、迷惑じゃないんですか」
死神は肯定するように、プリンスの額に軽く口づける。
優しい行為に、プリンスは涙目になって死神に腕をまわした。

こんなことは、許されない関係かもしれない。
けれど、静かな物言いや、冷静な瞳にどうしようもなく惹かれてしまった。
「好きです・・・先生、好きです・・・」
溢れる想いを告げるように、はたまた懇願するように言う。
死神は閉口していたけれど、その腕が回されているだけで、プリンスは満足だった。


―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
とうとう、先生×生徒の危ない関係に・・・だがそれがいい←
かなりはまったのが、死神とデスの二人なので、他のキャラは・・・
ゲームにもう一度はまったら書く、と思います。